隣接領域との共通点と相違点

写真療法以外にも、写真を使った療法や研究手法、コミュニケーション手法、写真活動が多々あります。以下に当協会が提唱する写真セラピーとの違いと共通点を記載します。

 

1.写真回想法

 

写真回想法と写真セラピーはどちらも写真を利用した支援法ですが、写真セラピーにおける写真とは、ワークショップの中で実際に本人が撮影した、撮影された写真を利用します。従ってセッションの中での撮影プロセスを伴なわず、第3者が撮影した古写真や昔の思い出写真を見ながら思いを語ってもらう回想法は、写真療法とは区別します。また、写真療法の目的が心のケア(癒しや生きる力の喚起、自己理解、自己回復)であることに対して、一般回想法は主に高齢者の認知機能の維持改善、コミュニケーションの促進を目的として高齢者施設で実施されます。またホスピスなど終末期医療施設において、患者の人生の振り返り、自我の統合を目的として回想法が「ライフレビューセラピー」として実施されることもあります。

 

2.コラージュ療法 

 

写真セラピーとコラージュ療法はどちらも写真を利用した心理療法であり、写真セラピーの基本プログラムでは写真をコラージュするプロセスも包含しますので、それらの点はコラージュ療法と共通しています。しかしながら、以下の点で、主に第3者が撮影した雑誌の写真を利用するコラージュ療法とは区別します。

 

(1)写真セラピーでは、本人が撮影した、もしくは本人や、本人にとって意義深い被写体(家族や大切なペット、宝物など)が写っている写真を利用するものであり、第3者が撮影した雑誌などの写真は使用しません。

 

(2)写真セラピーの基本プログラムでは、写真を飾るコラージュ素材として(補足的にマスキングテープや他のクラフト素材を利用することもありますが)「スクラップブッキング」というフォトクラフト材料を使用します。それは、スクラップブッキングそのものが様々なセラピーとしての要素を包含していること、手軽に見栄えのよいアルバム作りができること、用紙の大きさと形が約30センチ四方の正方形であり、その形が心の安定感や安心感を与え、自由な表現を促すこと、コラージュ素材としての種類の豊富さが表現に幅と深みを与えると考えるからです。

 

(3)写真セラピーでは、必ずしもコラージュするプロセスは不可欠ではありません。確かに写真セラピーの基本プログラムでは、写真をコラージュするプロセスを包含しますが、実施目的や実施回数等に応じて、家族アルバムや本人が写っている写真を見ながら、もしくは本人が撮られる、撮り合うプロセス、それに対して思いを語るプロセスをとおして自己回復につなげる(コラージュをしない)セッションなども含めます。つまり、写真セラピーでは、撮る、撮られる、撮り合う、撮った写真を見る、プリントする写真を選ぶ、コラージュする、想いを語る、飾る、贈るなど、全ての写真活動を包含するため、基本的には雑誌の写真を選び、コラージュし、思いを語るプロセスに限定されるコラージュ療法とは区別します。

 

2.自叙写真法と写真投影法

 

自叙写真法とは、「あなたは誰ですか?」という問いかけに写真で回答することを求め、撮影された写真を通して回答者の内面の世界を把握しようとする研究手法です。写真投影法とは、自分の生活の中で何らかの教示を与えて自由に写真を撮らせ、その人のいる環境世界と心理的世界を把握しようとする手法です。どれも写真の特性である「投影性」を利用し、自由に写真を撮らせるプロセスを含む点では共通しますが、写真セラピーは、写真を楽しむ過程の中で、人が自ら自分らしさにきづき、癒しや元気につながるセルフヒール(自己回復)のプロセスを手助けするセラピーとしてのプログラムであり、撮影された作品から内面世界や環境世界を測定、分析することはありません。

 

3. 作業療法における写真の利用

 

クラフトとして写真を楽しむことでも、いい作品ができたという自信や意欲、満足感など、生きる力を喚起することができます。そしてそのような創作活動の効用を活用するのが作業療法です。作業療法とは、身体又は精神に障がいのある者に対し、主として動作能力や社会的適応能力の回復を図るために、しんどさや苦しさを軽減し、生きる喜びを見つける手段として、手工芸、芸術、遊び、学習、運動、料理、園芸などを利用して患者を支援します。写真セラピーが自己洞察、自己発見、自己回復の促進といった心理面を重要視するのに対して、作業療法では身体機能や障害の軽減(リハビリ)を主な目的として実施されます。

 

4.カウンセリングにおける写真の利用

 

家族療法などにおいて、昔の家族アルバムや過去の写真を見ることで現実や過去の事実を直視させる、過去の歪んだ記憶や認知を修正するなどの目的で写真が利用されることがありますが、自分が撮る、撮られる、コラージュするなどの実践的な写真活動を含まず、写真を見て、思いを語るプロセスに限定される利用は、写真セラピーとは区別します。

 

5.自分自身で楽しむ写真活動

 

写真セラピーは、訓練を受けたファシリテーターが第3者に対して実施する写真を利用した支援法です。従って、結果的にそれが心身に諸々の影響(写真の効用)をもたらすとしても、自分一人で楽しむ写真活動は写真セラピーと区別します。

 

6.写真教室やスクラップブッキング教室  

 

写真セラピーでは、写真やアルバム作りを「自由な心の表現」のツールとして利用し、技術の取得や向上が最終目的ではありません。どんな表現もその人の個性、感性として受け止めます。それに対して通常の写真教室やスクラップブッキング教室では、技術の取得や芸術性を高める作品作りを指導することが目的であり、写真セラピーとは区別します。

 

また通常の写真教室やスクラップブッキング教室では講師がテーマを与え、そのテーマに沿った作品作りを促すことがありますが、写真セラピーでは基本的にテーマを与えず、参加者がその時の自分の気持ちにそって自由に好きなものや気になるものなどを撮影することを大切にします。これは写真療法(写真セラピー)の一番重要な要素である「写真の投影性」を利用するからです。気の向くまま自由に撮られた写真にはその人の心の世界が投影されています。そしてその表出を促し、それに共感的に寄り添うことで、自己洞察→自己発見→自己回復のプロセスが促されるのです。従って基本的には「何を撮ろう」「何を作ろう」などの具体的なテーマは与えません。

 

7.芸術としての写真活動 NEW!!

 

芸術としての写真活動と写真セラピーにおける写真活動は、どちらも写真という媒体を使った自由な表現活動である点と写真の<投影性>を利用した活動である点で共通します。投影性とは、個人の自由な連想を刺激する点や、自分の好きなように認識したり解釈できる点、そして自分の知識や経験、記憶の干渉を受ける点などを指します。しかし、芸術作品が芸術の知識や技術を必要とし、作品性の高さ(芸術性)が第一目的であるのに対し、写真セラピーにおいては、特段の写真の知識や技術を必要とせず、自由な写真活動をとおして心の健康につなげることを目的とします。

 

                             著・酒井貴子(2012)

                            2017.12/05 一部改訂)

 

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