写真療法の歴史的変遷(海外)

Phototherapyという名称を使って心理療法における写真の利用法を最初に紹介したのは、1975年、カナダ在住の心理学者であり芸術療法家のJudyWeiserであると言われています*2)。その後、精神医療の専門家らによるPhototherapyの発表が続きましたが*3)、それらは精神医療の専門家らによる写真を使った治療法の紹介であり、一般人がセラピー効果を期待して自分のために実践できる枠組みを示すものではありませんでした。

 

ところが、1985年、英国の写真家のJoe Spenceらが一般人による自己回復のための写真の利用法をPhoto therapyとして発表しました*4)。Spence は翌年出版した著書*5)の中で、乳がんを患った自分のセルフポートレート写真を撮影しながら生を見つめ、現実を受け入れることで死の恐怖を乗り越えたことを述べています。

 

1993年になると、上述のWeiserは、著書「PhotoTherapy Techniques」*6)を出版し、心の専門家向けに写真を使った5つのテクニックを症例とともに発表しました。また、Phototherapyに関する国際会議も何度か開催されています。しかし、2010年に開催されたWeiserの講演とワークショップに参加した岸田氏は、「様々な芸術療法のように学問としての『写真療法』は確立しておらず、写真療法に特化した教育プログラムもないとのことでした。」*7)と述べ、海外においてもPhoto Therapyは、確立途上にあるように見受けられます。             

 

                             著・酒井貴子(2012)

 

   【参考・引用文献】

(1) Stewart, J.: Phototherapy-Looking into the History of Photography: Phototherapy in mental health. P.29, Charles C. Thomas, Springfield, IL, 1983.

(2) Weiser, J.: Phototherapy- Photography as a Verb.. The B.C. Photographer, 2:pp.33-36, Vancouver, Canada, 1975.

(3) Krauss, D.A. & Fryrear, J.L.: Phototherapy in mental health. Charles C. Thomas, Springfield, IL, 1983.

(4) Martin, R. & Spence, J. : New portraits for old: the use of the camera in therapy. Feminists Review, 19, pp.66-92. 1985.

(5) Spence, J.: Putting myself in the picture – A political, personal and photographic autobiography. Camden Press, London, 1986.

(6) Weiser, J.: PhotoTherapy Techniques: Exploring the secrets of personal snapshots and family albums. Jossey-Bass, San Francisco, CA, 1993.

(7) 岸田恵理子:海外フォトセラピー事情.日本写真療法家協会会報誌、15:p.2、2012.

 

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